last updated 1997/08/14
第91話(全130話)
パピロ ふたたび(2/2)
「それで、グノートンは何が起こるって言ったの?」
「それが何にも言わない。困っちゃったよ、おいら」
「言わないの?」
「そうなんだ。だってグノートンってばこのドンロンに釣り上げられちゃったんだもの。わけ
を訊こうにも訊けないじゃないの」
「グノートンが釣り上げられた?」
「そうなの。それでね、おいらも仕方ないから一緒に釣り上げてもらったの。そしたら捕まっ
ちゃってね、この檻の中に放りこまれちゃった」
何をしてるんだか、パピロのすることは、喋ることと同様、意味不明なのだった。勇気があ
るんだか、おっちょこちょいなのか、さっぱりわからない。
「でも、おいらを莫迦にしてもらっちゃ困るよ。おいら、檻の中からちゃんと我が身分を名乗
ったんだから」
「我が身分?」
「そうさ。おいらはカイラ国のマリカ姫一の家来である。ゆめゆめ疎かに扱うなかれって、そ
んな感じでさ」
「マリカのことをケダックに話したの?」
「話したさ。ロボットとグリフォンとフィンクを連れて旅を続けるマリカ姫が、もしおいらが
囚われてると知れば、必ず救出にくるであろうってさ」
「そんなこと言ったの?」
マリカは絶対自分の身分をケダックに秘密にしてくれ、とそう言ってなかったか? 身分を
知られれば、それがケダックとカイラとの戦争の引鉄になるかもしれないと、そう言ってなか
ったか?
「でも、パピロの声はぼくにしか聞こえないんだったよね。人間にはチューチューっていうふ
うにしか聞こえないんでしょ?」
「と、思う所がロボットの浅はかなところだよね。ケダックの科学力をあなどっちゃいけない
よ、マスターくん」とパピロ、何故だかわからないけれどまたエヘンプイと胸を張る。「この
船にはパピロ用音声増幅装置とかってもんがあったんだな。だからおいらの言うことはちゃん
とケダックに伝わったし、ケダックはだからお前さんやマリカたちをちゃんと海から拾い上げ
たんだ。感謝したいんなら、感謝してくれていいよ」
「どうして感謝しなきゃならなんだよ」
「だってきみたち漂流してたんでしょ? アーバムの山を降りてから、すぐに海に出たらしい
ってことはケダックたちも知ってたんだ。だけどそのあとすぐにあのひどい暴風雨だったから
ね、ケダックの連中もきみたちがまだ生存してるなんて思ってなかったよ」
「ケダックはぼくたちが海に出たことも知ってるの? ずっとマリカのこと尾けてたの?」
「何でおいらがそんなこと知ってると思うんだい?」
「だって、きみはケダックのことに詳しいじゃないか」言って、ピートはハタと気づく。「そ
うか。きみがスパイなんだな!」
「スパイ?」
「そうさ。ケダックに言われてマリカを尾けてたんだろ。それでマリカが筏で海に出るのを見
て、このドンロンに追跡させたんだ。そうなんだろ!」
ピートは声を荒げる。マリカは絶対に自分の身分は悟られたくないと言っていた。ケダック
とカイラとの戦争の材料にされてしまう恐れがあると、そう言っていた。もし彼女の身柄を拘
束することで、カイラ国を脅迫できるのだとしたら、ケダックの連中はマリカのひとり旅をチ
ャンスだと見ていたはずだ。マリカの後を尾けさせ、仲間のような顔をして気を許させ、そし
て目的地を聞き出して先回りして、一気に包囲して捕らえると、そういう計画だったに違いな
い。仲間に加わらせるのに、このパピロのように何を喋ってるんだかまったく要領を得ないリ
スネズミほど恰好の逸材もないだろう。パピロはアーバムの所でマリカたちが風に従うと聞く
なり、走り出して山を下り、その旨ケダックに報告したに違いない。
そういうことだったのだ、とピートは確信した。
「白状しろよ、パピロ! きみはスパイなんだろ!」
詰め寄るピートを、目をパチクリさせながら、パピロは見上げていた。そして言う。
「マスター、お前さん、人の話を聞いてなかったの? おいらは森に帰って、そこでグノート
ンから直接、遠吠えの理由を訊くべく浜辺に行って・・」
「その話ならちゃんと聞いたさ」
「だったら、何わけのわかんないこといきなり言い出すの?」
「都合が良すぎるじゃないか。まずパピロを捕まえ、つぎに漂流してるマリカを捕まえる。こ
の広い海で、そんなに都合良く行くものかい? 誰かがちゃんと行き先を教えてなきゃ、マリ
カが捕まるはずはないじゃないか」
「そりゃもちろん、マリカの現在位置を教えた奴はいたさ」
「きみだろ、パピロ」
「違うよ。トライポッドとかって奴だよ」
「え?」
ピートはキョトンとなる。その顔を「これだから回路不良のロボットは頭が悪い」と言いな
がら見つめて、パピロは続ける。
「トライポッドってのはケダックの船の緊急脱出用の乗り物なんだよ。海に浮かんでる時に避
難するんだったら、救命ボートで充分だけど、沈んでしまってから脱出するにはカプセル状の
乗り物が必要だし、たいせつな書類や荷物があったら、そういうのもカプセル型の乗り物に積
んで逃げたほうが安全でしょ? だからああいう乗り物がケダックの船には常備されてるんだ
よ。で、緊急用で、しかもたいせつなものを積むカプセルだから起動しはじめると同時に位置
を報せるシグナルも出しはじめるんだ。そうしなかったら広い海の中、どこにたいせつなカプ
セルがあるのかわからないだろ?」
じゃあ、マリカはトライポッドに乗った時から、すでにケダックの連中に居場所を知られて
いた、というわけだ。
「でも・・」
とピートはまだパピロへの疑惑を捨てずに問い重ねる。
「じゃあ、きみの言うことが真実だとして、どうしてケダックはグノートンを釣り上げたりし
たんだい?」
「グノートンが遠吠えなんかしてるからに決まってるじゃないか」
本当に頭が悪いなぁ、という口調でパピロは言う。
「ケダックもおいらと同じように、どうして遠吠えなんかしてるのか、その理由を知りたかっ
たんだってさ。訊いたら、そう教えてくれたよ」
パピロは続ける。
「彼らはね、いま、有り得ざるものを捜してるんだよ」
「有り得ざるもの?」
「え、まさか、そんな莫迦なって、いうものさ」
だからパピロを捕まえたのか? それはそれで納得できる気もする。
ピートは訊く。
「こんな莫迦でかい船で、世にも珍しいものを集めて回ってるってのかい? どうしてそんな
ことをしなきゃならないの?
パピロはピートの質問に、ゆっくりと応えた。
「星読みが異変を感じ取ったんだってさ」
(つづく)
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